【投稿論文】子供の自尊感情を低くする親の否定的メッセージ

子どもの自尊感情を低くする親の否定的メッセージの考察

~教育的メッセージが否定的に働くドライバーの自尊感情に与える影響について~

 

 

1、はじめに

現代の日本の若者は欧米諸国に比べ、
自尊感情が低いと言われている。
また学校を卒業しても生活を親に依存し続けている、
ニートと呼ばれる若者が約71万人いると云う調査結果も発表されている。
(内閣府.2019年.子ども若者白書.「今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの」)

その他、社会を賑わす昨今の青少年に関わる事件も、
問題点の根底には、自尊感情の低さがあることが多い。

そのような若者は、
ネグレクトなど親に愛されずに育った場合もあるが、
中には子育てに一生懸命で、教育に熱心な親に育てられた若者もいる。

養育者は、一生懸命子育てをしているにも関わらず、
何故、子どもはそのように自尊感情が低くなるのだろうか。
私は、子どもに関わる仕事やボランテイア活動に長年携わり、
学校教育、社会教育の現場を見てきた。
そしてその中で「家庭教育」の重要性を実感し、それを執筆やセミナーという形で現在伝えている。

 

2、問題と目的

子育てに熱心な親は、
子どもをしつけようと教育的メッセージ
(拮抗禁止令、以下教育的メッセージと表記)を
多く与える傾向がある。

教育的メッセージは、養育者が経験したことや学んだことを、
子どもが生きていくうえで必要な知恵として、
しつけや教訓により肯定的なスローガンや
メッセージとして伝えられるものである。

しかしそれを繰り返し駆り立てられるように言われると、
否定的なメッセージとして解釈することがある。

自らを駆り立ててしまう
否定的なメッセージであるドライバー(driver)が
自尊感情の低さに何らかの影響を
及ぼしているのではないかと感じている。

ドライバーと自尊感情の関係を調べることは、
子どもの将来の幸せを願い子育てに
一生懸命に取り組む養育者の参考となり、
意義のあるものと考える。

 

3、研究方法

先ずは現在、自尊感情について調べる設問を10問用意した。
次に、過去に受けた教育的メッセージがドライバーとして
受け取っているかを知るため、
ドライバーの特徴を示した設問を用意した。

TAの5つのドライバーより各2問ずつ、計10問を設問1と併せて、
協力者にその20問に回答してもらい、その結果を考察する。
尚、5つのドライバーとは、「完全であれ」「他人を喜ばせよ」
「一生懸命やれ」「強くあれ」「急げ」である。

 

調査対象 20代から60代までの男女3名

調査期間 2019年5月

使用した尺度・項目   下記

(1)現在の自尊感情の調査

用意した設問に対し、現在の自分の気もちを数字で記入。
はい4、どちらかと言えばはい3、
どちらかと言えばいいえ、いいえとして

回答を求めた。(表1)

表1 現在の自尊感情についての設問項目

1、私は自分に満足している

2、私は自分がだめな人間だと思う。

3、私は自分には見どころがあると思う。

4、私は,たいていの人がやれる程度には物事ができる。

5、私には得意に思うことがない。

6、私は出分が役立たずだと感じる。

7、私は自分が,少なくとも他人と同じくらいの価値のある人間だと思う。

8、もう少し自分を尊敬できたらと思う

9、自分を失敗者だと思いがちである。

10、私は自分に対し、前向きな態度をとっている。

(出典:ローゼンバーグの自尊感情尺度日本語版の検討)

 

(2)過去に受けた教育的メッセージがドライバーとして受け取っているかの調査

用意した設問に対し、子どもの頃の記憶をもとに数字を記入。
当てはまると思う時は、どちらかと言うと当てはまる
どちらかと言うと当てはまらない、当てはまらないとして
回答を求めた。(表2)

 

表2 受けた教育的メッセージがドライバーとして働いているかを調査する設問項目

1、他人から念押しされると自信が持てなかった。

2、何事にもきちんとやらなければならないと緊張して、つまらないことで失敗をした。

3、自分の事より、相手の事を優先していた。

4、他人に良く思われたいと、周りの目や評価を気にしていた。

5、まだ努力がん足りないと自分に鞭打っていた。

6、練習さえすれば上手になると、ひたすら同じ動きを繰り返していた。

7、体調がよくなくてもそんな素振りをみせないようにしていた。

8、手助けが欲しくても、一人でなんとかしようとしていた。

9、話を最後まで聞けず、つい促したりさえぎったりしていた。

10、一番早く出来たことに優越感を味わっていた。

(出典:NPO法人日本交流分析協会2級テキスト 人生脚本ドライバー参照)

 

3、研究結果

今回3名の者(Aさん、Bさん、Cさん)に協力を得て調査を行った。

設問1に関しては、
反転設問(設問2、設問5、設問6、設問8、設問9)を用いている。
その設問は、加算する点数を4は1点、3は2点、2は3点、1は4点として計算を行った。
設問2に関しては、数字をそのまま加点した。
その結果、表3の結果を得られた。
また表4はそれをグラフに表したものである。

 

設問1 設問2
A 30点 32点
B 34点 23点
C 27点 15点

(表3)自尊感情とドライバーの関係

 

自尊感情が最も高いのはBさんで34点、
その者のドライバーは23点と3名の中の真ん中である。
自尊感情が2番目に高いAさんは、
ドライバーの点数は32点と3名の中で最も高い。
自尊感情が最も低いのはCさんで27点で、
その者のドライバーは15点と最も低い。

 

 

 

実線:自尊感情

点線:ドライバー

 

(表4)自尊感情とドライバーの関係を表したグラフ

 

4、考察と結果

(1)自尊感情と教育的メッセージをドライバーとして受け取る関係について

自尊感情が最も高い34点のBさんに、先ずは注目をした。
ドライバーは23点である。
全てを「当てはまる」と回答した場合40点となるので、
23点は、おおよそ中央くらいである。
よってドライバーの影響を全く受けていないのではなく、
教育的メッセージをいくらかは、
ドライバーとして受け取っていると考えられる。

 

自尊感情が2番目に高いAさんは、
ドライバーの点数は32点と3名の中で最も高い。
養育者からの教育的メッセージをドライバーとして
多く受け取っていると考えられる。

ここで興味深いのはCさんである。
ドライバーの点数が他の2名に比べ、
低く15点である。
よってドライバーにあまり縛られていないと考えられる。
しかし自尊感情は27点と3名の中で最も低い。

結果から見ると、ドライバーが、
自尊感情の高低に何らかの関係性を持ち
、影響を与えているとは言えないと推察できる。
しかし今回はデーターが少なかったため、
関係性がないとも言い切れない。
そこで回答者の3名のみに限って、
言えることを分析してみることにした。

 

(2)ドライバーは間接的に自尊感情に影響を与えていると推測

(Bさんについて)養育者は「子どもをしつけよう」
「人生に役に立つ教訓を教えよう」と、教育的メッセージを与える。
それが過度に繰り返され、子どもは駆り立てられる
否定的なメッセージをして受け取るが、
ある程度は、勉強や仕事に望む動機付けにもなるのではないか、
と考えた。

ドライバー自体は、
人生の脚本にネガティブな影響を与えるが、
若干の駆り立てられる気持ちは、
勉強や仕事に懸命に取り組みことを促し、
自分が望んだ結果や、
目標に近づく成果を得られるのではないだろうか。
そのため得られる結果から、達成感や充足感を感じ、
自尊感情が高くなる要因のひとつとなったのではないか
と考えられる。

 

(3)繰り返される教育的メッセージがドライバーとなっていると推測

(Aさんについて)教育的メッセージが繰り返され、
駆り立てられると、
「それさえしていれば自分はOK」と条件付きの
肯定的ストロークを自分に出し、
「今、ここ」での真の問題の解決になっていないことがあると思われる。
また「それをしなければ自分は認められない」と
自分の価値を「完璧にできること」「他人を喜ばせること」
「一生懸命すること」「強くあること」「早くすること」などに見出し、
それらができなければ、自分はダメであると思い込んでしまう。
それが自尊感情に影響を与え、高くないと考えられる。

 

(4)望んだ結果が得られないことから、自尊感情があまり高まらないと推測

(Cさんについて)
ドライバーの値が最も低いのはCさんで15点である。
ドライバーの影響をあまり受けていないとすれば、
自尊感情は高い値が得られると予想されるが、
実際には27点と3名の中では最も低い。
ドライバーに縛られないことは自尊感情にとっては
プラスの影響を与えると考えられる。
しかしあまり駆り立てられることなく物事に取り組んできたことより、
自分の目標とするものが思うように得られず、
それがストレスとなり、
自尊感情が低く表れたのではないだろうかと推測される。

 

(5)ドライバーは自尊感情に影響を与えるが直結しているとは言えない

ドライバーは人生脚本に大きな影響を与える。
「~さえしていればOK」という思い込みは、
一生懸命取り取り組んでいるにもかかわらず
「今、ここ」で起きている問題解決には取り組めていない状態である。

またドライバーにより「~が出来たからOK」という
条件付き肯定的ストロークを自分に与え続けると、
その条件を満たせない場合、自分を認められず、
自尊感情は低くなると言える。

故に、ドライバーのみに注目し、
自尊感情への影響を考えると、「ドライバーは自尊感情を低くする」と
予想できる。
しかし実際にはさまざまな要因が複雑に絡まり、
自尊感情は形成されていくので、
ドライバーの値が、自尊感情の高低に直結しないが、
自尊感情が形成されている何らかの要因のひとつに、
ドライバーが影響していることは、推測される。

 

5、今後の課題と目標

今回はデーターが少なく、全体の傾向や、
何かを示唆するまでは調べることはできなかった。
だが、この回答した3名のみの結果を考察しただけでも、
非常に興味深いものとなり、
今後の研究への前向きな動機づけとなった。

今後多くの人に協力を得て、データー数を増やしていきたいと思う。
またできればドライバーの5つの内訳も調べ、
どのドライバーが最も自尊感情に影響を与えているかも
調査してみたいとも感じた。
そして熱心に子どもに関わっている養育者の
教育的メッセージやドライバーが、
子どもの自尊感情に与える影響を
より明らかにしていくことが今後の課題である。

 

参考文献

内閣府.(2019).子ども・若者白書. 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの.内閣府.
NPO日本交流分析協会.(2012).交流分析士2級テキスト.日本交流分析協会.
NPO日本交流分析協会.(2012).交流分析士2級テキストシート.日本交流分析協会.
山本昭一.(2017).日本交流分析協会関西支部.論文研究会資料.日本交流分析協会.
桜井茂男.(2000).ローゼンバーグ自尊感情尺度日本語版の検討.筑波大学論文.

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下記論文は審査を経て、掲載されたものです。
子どもの我慢する力、自己制御についての研究です。
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【論文】子どもの社会に適応する我慢の考察

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