子どもが自立する「甘え」と「我慢」の育み方

本文章は、河合薬業株式会社の「健康教育」に執筆させて頂いた記事です。

 

子どもが自立する「甘え」の受け止め方と「我慢」の育み方

「あなたの子育ての目標は何でしょう?」

「どのような子どもに育ってほしいですか?」

と尋ねると

「子どもを自立させること」

「自立した子に育つことを願っています」

とほぼ全てと言っていいほどの方が「自立」をキーワードに
答えられます。

 

次に続けて質問をします。「そのために、どのようなことに気をつけて

子育てをされていますか?」

すると「しっかり自立させたいので、甘えさせないようにしています」

「規律やルールを守れるように、幼い頃から我慢することを教えています」と

答える方が多くおられます。

確かに、甘えさせると自立しないように感じます。

我慢ができなければ、他者との交流や集団生活も円滑いかず、

社会での自立は難しくなるでしょう。

 

■誤って捉えられがちな「甘え」と「我慢」

私は長年、幼児教室や公立幼稚園、小学校で勤務、

また小児病棟への慰問、子どもの声を聴く公的ボランテイア活動などを通し、

さまざまな角度から、多くの親子に関わるご縁を頂きました。

その中で懸念していることがあります。

それは子どもが自立する過程においての甘えの受け止め方や

我慢する力の育み方です。

 

早く自立させるために甘えさせない、

我慢する力を身につけさせるために、幼い頃から小さな我慢をさせる。

一見その子育ては正しいように感じますが、実はそうではないのです。

 

■目に見えず、分かりにくい「心」の成長

身体の成長は「体重が何キロ増えた」

「身長が何センチ伸びた」と目に見えるので、分かりやすいですね。

また行動の自立は「つかまり立ちができた」

「一人でスプーンを持って、ごはんを食べることができた」と、

こちらも分かりやすいです。

では心の成長はどうでしょうか。目には見えませんし、

結果も直ぐに表れないので分かりにくいですね。

 

■自立へ向かう中で必要な甘え

母親のお腹の中からこの世に生まれてきたとき、

赤ちゃんは生活の全てをお母さんに依存しています。

お腹がすけば母乳やミルクがもらえ、

オムツが濡れて泣けば、取り替えてもらえる。

その状況は赤ちゃんの心を安心させるとともに、

親に甘えている状態であるとも言えます。

子どもはこの「依存」「甘え」の中で、

安心感を得て、成長していくのですが、

しだいに別の気持ちが芽生え始めます。

 

親に依存していることは安心ではあるけれど、

そこには「自分の思い通りにできない」という不自由を感じ始めます。

そうすると、子どもは親から離れ、何でも自分でやってみたくなります。

 

親から見れば、まだまだ一人ではできないのに、

自分でスプーンを持ってご飯を食べようとしたり

服の着換えに手を貸せば、「自分でする!」と言って、

親の援助を断る時期がありますね。

自立への一歩を踏み出しているわけです。

親の言うこと、全てに反抗しているように見えるこの頃が、

2歳前後の「第一次反抗期」と言われる時期です。

そしてこの自立した中で自由を満喫している子どもは、

やがてまた別の気持ちを抱きます。

 

それは、「不安」です。一人でできると思っていたことができなかったり、

お母さんから離れていることに、寂しさを感じたりし始めるのです。

すると子どもは以前、親に依存していた環境に戻ろとするのです。

それが「甘え」です。そして充分に親に甘え、安心すると、

また不自由感を抱き、自立しようとするのです。

 

■螺旋を描くように自立していく子どもの心

このように、子どもの心は「安心」と「不安」、

「甘え」と「反抗」の気持ちを行ったり来たりしながら、

少しずつ成長し自立していくのです。

ですので子どもが甘えてきた時は、

しっかり甘えさせてあげてください。

ここで「いつまでも甘えちゃダメ!」と言って、突き放してしまうと、

子どもは「一旦、お母さんから離れると二度と受け入れてもらえない」と感じ、

いつまでも自立しようとしなくなります。

 

つまり自立の螺旋がそこで阻まれるわけです。

しっかり子どもの心を受け止め、

甘えさせてやることによって、

子どもの心は螺旋を上向きに描くように、

ドンドン自立していくのです。

では、子どもが甘えてきた時は、全てにおいて、

受け入れれば良いのか、と言いますとそうではありません。

自立に必要な甘えと、自立を阻む甘やかしがあります。

親はこれらをきっちり見分けることが大切です。

ではその見分け方のポイントを次にお伝えします。

 

■「金銭的な要求」は自立を阻む甘やかし

・「おもちゃが欲しい!」「お菓子買って」と言ってくること。

・「おこづかい、もっと欲しい~」と頼んでくること。

 

金銭的や物質的な要求は、

子どもの自立を阻む甘やかしになります。

このような時は、「今日はお菓子を買わないわよ」と

買い物に行く前に約束を交わしたり、

「おもちゃはお誕生日に買ってあげるわね」

「おこづかいは計画を持って使いなさい」と節度を持って対応しましょう。

 

■「精神的な要求」は自立に向かう甘え

・「お母さ~ん、抱っこ~」と膝の上に座りにくること。

・背中から抱き付いてきて「ねえ、聞いて、聞いて!」と言ってきたりすること。

 

これらの精神的な要求は、自立に必要な甘えになります。

ですのでしっかり受け止めてあげましょう。

 

■「大人の都合の甘やかし」は自立を阻む

・夜、子どもがパジャマに着替えようとしている時、

親が横から「着替えさせてあげるわ」と、サッと着替えさせてしまうこと。

・子どもがお茶をコップに入れようとしているとき、

「入れてあげるわ」と、親が子どもの行動に口を挟み、

代わりにしてしまうこと。

 

これは自立を阻む「甘やかし」になります。

夜、早く寝させたい時には、サッと着替えさせたくなるでしょう。

また子どもがお茶をコップに入れると、

こぼして後片付けに手間がかかるでしょう。

ですがこれらは全て親の都合です。

 

親の都合で甘やかすのは、子どもの意欲を低下させることになり、

自立を阻む甘やかしになります。

 

■「子どもの都合の甘え」は自立を促す

・今まで一人で着替えができていたのに、急に「お母さん、ボタン留めて~」と

言ってきたとき。
・お茶をコップに入れることができていたのに、

「お母さん、お茶をコップに入れて!」と言ってきたとき。

 

これらは「自立に必要な甘え」になります。

実はこの時、

子どもは何かしらの「不安」や「寂しさ」などを感じているのです。

ですので、「一人でできるでしょう」と言わず、手伝ってあげてください。

つまり「甘やかし」は親の都合で親から子どもに働きかける場合で、

「甘え」は子どもから親に働きかける場合と考えれば分かりやすいでしょう。

 

■子どもの甘えを正しく受け止め自立を支援

多忙な日常生活のなかで、

子どもの都合ばかりを優先させるわけにはいかない時もあるでしょう。

ですがおとなの都合でつき放したり、

かまいすぎて甘やかしたりするのではなく、

あくまでも子どものペースで甘えさせ、

自立を支援してあげてください。

 

■社会で自立し生きていく為に必要な我慢する力

そして社会の中で自立し生きていくには、

「我慢する力」も身につけておきたい大切な力です。

子どもの世界は母親と自分との1対1の関係から家族、

やがて保育所や幼稚園とその世界は広がり、

集団のルールを守ることや、

校則や社会の規則に従うことを必要とされます。

 

また多様な考えとも出会い、

自分の意志が通らないこともある経験をし、

そこにも我慢を要します。

そのため幼い頃から厳しく躾け、

小さな我慢からさせている親も少なくありません。

ですが、子どもの我慢する力は、厳しくするのではなく

ありのままを受け入れることで培われていくのです。

では次にその理由と身につけさせる関わり方をお伝えしたいと思います。

 

■親に我慢を強いられる子どもは突然キレることも起こり得る

子どもは本来、様々なものに興味を持ち、

「知りたい」「やってみたい」という気持ちや

意欲を健やかな成長の発達の中に持ちわせています

何でも触ってみたり、「これ何?」

「どうして?」「何故?」と親が閉口するくらい

質問を投げかけてくる時期があるでしょう。

 

親の我慢の強要は、

子ども本来の成長を抑えることになります。

すると子どもは徐々にストレスを溜め込み、

親が見ていない所では我慢ができなかったり

ある時急に爆発し、いわゆる「キレる」と言う状態が

起こり得ることもあるのです。

 

■耐え忍ぶ我慢と自己抑制の我慢

次に我慢そのものに目をむけてみましょう。我慢には大きく分けて、次の2種類があります。

 

・親に強要され行う耐え忍ぶ我慢(Patiencs-endurance)

・子ども自身が自らの意志で行う我慢(Self-control)

 

前者は、人に無理強いされて行う我慢です。

たとえば「もっと勉強しなさい!」と

親に言われ、本人は納得していないのだけれど、

親の抑圧によりイヤイヤ勉強を行なう、いわば「耐え忍ぶ我慢」です。

 

後者は、何らか目標のために自分に言い聞かせ行う我慢です。

たとえば、勉強をするのは好きではないけれど、

「志望校に合格したいから、勉強をしよう」と本人の意志で行う

「自己抑制の我慢」です。

 

前者の「我慢」はあまりにも強要すれば、

突然子どもがキレたり、

反対に無気力になる可能性もあります。

 

子どもの身につけさせなければならないのは、

当然、後者の我慢ですね。

ではその我慢はどのように子どもの身につけさせることができるのでしょうか。

 

■「我慢」は理由の説明と、具体的な行動をセットで教える

「我慢しなさい!」と一方的に我慢を無理強いされると、

子どもは親に反発心を抱き、さらに親の言葉に耳をかさなくなるでしょう。

子どもに我慢をさせたい時は、

「なぜ、我慢をしなければいけないのか」

その理由もきちんと説明してあげてください。

そして「ダメ!」と禁止の言葉だけを言うのではなく、

その後の行動も伝えてください。

 

たとえば、公園ですべり台を並んで待っている場面で、

順番を抜かし、先に行こうとした時

「皆、並んで待っているでしょう。順番を抜かすことは悪いこと」と

説明しましょう。

そして「一番後ろに並ぼうね」と行動を具体的に教えてあげることです。

 

更に詳しく年齢別の我慢の教え方をお伝えします。

 

■2~3歳児への我慢の教え方「親の気持ちを伝える」

2歳を過ぎると、行動範囲が広がり、

身の回りのさまざまなモノに興味関心を持ちます。

ですが、危険への認識はまだできておらず、

親はヒヤヒヤする場面が多くなるでしょう。

 

大人の言うことが分かっているようで、

理解は完全ではありません。

ですが我慢しなければならない理由は、

子どもにしっかり説明してあげてください。

特に危険を伴うことは、親がきっぱりとした口調で、

厳しい表情で対応しましょう。

そして子どもの気持ちを受け止め、

親の気持ちを伝えるように話せばよいでしょう。

 

たとえば、急に道路に飛び出そうとした時、

「危ないから、道路へは急に飛び出したらダメ!」と

子どもの目を見て、厳しい表情で、きっぱりとした口調言い、

「〇〇ちゃんがケガをするとママ悲しいから、飛び出さないでね」と

親の気持ちを伝える言い方をするといいでしょう。

 

■4~5歳児への我慢の教え方「相手の気持ちを感じさせる」

4歳を過ぎると、基本的生活習慣が確立へと向かっていきます。

食事や着替え、トイレも徐々に一人でできるようになってくる時期です。

また自分と他者との違いにも気づき、少しずつ相手の気持ちや

周囲の状況も分かってくるようになります。

 

この頃は、社会にはルールや決まりがあることも含め、

相手の気持ちを考えさせる言葉もかけていきましょう。

 

たとえば、病院の待ち合い室で騒いだ場合、

「ここはね、頭やお腹が痛かったり、

熱があったりする人がたくさんいるの。他の人に迷惑がかかるから、

静かにイスに座って待っていてね」と説明しましょう。

 

■6~7歳児への我慢の教え方「先のことを考えさせる」

益々行動範囲や友人関係も広がり、社交性も出てきます。

心も体も一段と成長し、物事の因果関係や、

これから先の未来のことも少しずつ予想し、

理解できるようになってきます。

この頃になると、我慢の先には、目標の達成や、

喜びがあることを伝えるといいでしょう。

 

たとえば「ピアノを頑張って続けていると、

○○ちゃんの好きな曲が弾けるようになるよ。

素敵ね!だから頑張って毎日練習しようね」と

話してあげるといいでしょう。

 

■未来を担う子どもたちの健やかな成長を願って

私たちおとなは、

ともすれば子どもの自立や我慢する力の育ちを焦り、

親という立場から、抑圧的に強要しようとします。

ですがそれでは子どもの心が委縮し、主張を言えなくなり、

また子ども本来の伸びる力が抑圧されるでしょう。

 

親は包み込むような愛情で子どもを

ありのまま受け止めてあげましょう。

そして子どもの成長に合わせた関わり方で、

本来持っている力を引き出すことが

最も子どもの自立を促します。

 

未来を担う子どもたちの健やかな成長を願い

どのような時でも、しっかり大地に根を張り、

逞しく生きていけるように、親、地域、社会が協力しあい、

私達おとなは、子どもを育てていきたいものですね。

 


無断転用をされないようお願い致します。

もし、使用される場合、(田宮由美.河合薬業掲載.2018.9) と明記してください。

 

 

 

2018年9月

田宮由美|子育ち親育ち|発達心理学|
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