自己主張と自己抑制を統合的に発達させた我慢の育み方
■子育てに熱心である親ほど、誤って捉えていることが多い「子どもの我慢」
私は過去に幼児教室の指導者、公立幼稚園、小学校での勤務、
また小児病棟への慰問や他、公的ボランティア等通し、
数千人の親子に関わってきました。
その後、「子ども能力開花くらぶ」を解説、
現在は執筆、講演を中心に活動を行っております。
その中で、
「誤って捉えられている事が多い」と感じている事があります。
それは子どもの「我慢」についてです。
社会を生きていく為に、必要な力のひとつである我慢する力。
この力が備わっていないと、人間関係も円滑にいかず、
他者との交流や集団生活でも支障をきたし、
社会に適応する事が困難になるでしょう。
親は子どもの将来を考え、
我慢する力を身に付けさせようとする事は当然です。
「我慢しなさい」という言葉は、
親ならば、少なからず口にした事はあると思います。
では幼い頃、
親から常に我慢を強いられてきた子どもが、
将来、我慢できるようになるのでしょうか?
このことについて考えを深めていきたいと思います。
親に「我慢しなさい」と言われ、
AC(Adapted Child)が働き従順な子どもは、
欲求を抑え、世間では「いい子」「お利口な子」
また「親の躾が行きとどいた子」と良い評価が
なされる事が多いでしょう。
反対にFC(Free Child)が過剰で
奔放な子どもは、我慢できず「わがままな子」
「親の躾がなっていない子」と
親を批判される事もあります。
ですので、子育てに熱心な親ほど、
子どもに我慢を強要する事が多い傾向が見られます。
■健やかな成長を阻む危険性がある「我慢」の強要
子どもは成長とともに、見るもの聞くもの等、
五感全てから入ってくる情報に興味関心を持ちます。
そして「何故?」「どうして?」という
問いかけを繰り返したり
「もっと知りたい」「試してみたい」と意欲を持ち、
行動する事を主張してきます。
それらは全て、子どもが健やかな心の発達をする過程で、
本来持ち合わせているものです。
つまり「子どもに我慢をさせる」事は、
「意欲や自己主張を抑圧する」事にもなるでしょう。
そして我慢している「いい子」「お利口な子」は、
「いい子にしていなきゃ、親に褒めてもらえない」と、
子ども本来の姿を抑えている事が多いでしょう。
自分の意志や欲求を抑えているにも関わらず、
表面的には問題なく過ごしている「いい子」は、
「我慢している気持ち」が周囲には伝わらず、
親は次なる我慢を強要する事もあります。
そうすると、子どもは
どんどんストレスを溜め込んでいくでしょう。
初めは従順であったACが
親の過剰なCP(Controlling Parent)により、
委縮のACや反動のACになっていき、
親の見ていない所では、我慢が出来なかったり、
ある時、
急に爆発しキレたりすることも起こってくるのです。
このように、常に子どもに我慢を強いることは、
健やかな心の成長を阻む危険性が
多く潜んでいることを親は認識しておくべきでしょう。
■目指すは自己抑制と自己主張を調整、統合された我慢
次に、我慢そのものに目を向けてみましょう。
一概に「我慢」と言っても、
次の2通りがあります。
・親の過剰なCPが子どもを萎縮させ、強要され行う我慢。
・子ども自身がA(Adult)を働かせ判断し、自らの意志で行う自己抑制の我慢
子どもの身に付けさせるべきは、
後者の「自己抑制」の我慢です。
何故なら、強要される我慢は、
子ども本来のFCの機能が育たたず、
ACが否定的に働くからです。
目指すは、自発や行動のFCが適切に働き
「自己主張」ができ、
「抑制と主張」その両者の機能を
調整しつつ、統合的に発達させる我慢です。
■我慢を強いられている子どもは、自己肯定感が育ちにくい
親からいつも「我慢しなさい」と
幼い頃から、言われている子どもは、
本来の感情や欲求を抑圧されているだけでなく、
自分自身を否定されていると感じ、
親子の信頼関係も深まりません。
そして、「我慢しない自分は、親に愛されない」
「我慢できない自分は価値がない」と
心に満たされないものを感じ、
人が生きていくうえで最も重要な土台となる自己肯定感が育ちにくくなります。
「我慢しなさい」という言葉は、言い変えれば、
子どもがしようとしていることを
禁止する「何々するな」「Don’t do that」とも言えるでしょう。
幼児期の度重なる禁止令(Injunctions )は
人生の脚本に強力な影響を与えることになります。
それは、子どもの自由にやりたい気持ちを制限し、
考えや行動に躊躇をもたらし、
一人では何もできない、という傾向の
脚本を書く事が多いでしょう。
■ありのままの自分を認められると、子どもの心は満ちてくる
「我慢しているあなたは、いい子だから好きよ」ではなく、
「我慢できないあなたも愛しているわ」と、
ありのままの子どもを認めましょう。
そして心の欲求にはできる限り応えてあげましょう。
子どもはありのままの自分を受け入れられる事により、
親への信頼感が深まり、心は満ち足りてきます。
親が「無条件肯定的ストローク」の重要性を理解し、
実践することにより、
子どもの自己肯定感、自尊感情は高まり、
信頼関係の構築も大きく前進するでしょう。
■我慢させるべき場面を見極める親のAが子どものセルフコントロールを導く
本当に我慢をさせなければならない場面というのは、
自分の身に危険が生じるような行為、
又は他人に迷惑や危害を与えるような言動、
この2場面のみです。
その他は、高圧的、威圧的なCPで
親の都合よく子どもを支配しようとしていることが
ほとんどではないでしょうか。
親は「この言動は本当に我慢せるべき」かを
Aで正しく見極め、
養育的な愛情のNP( Nurturing parent )と
道徳的なCPで「我慢しなさい」という言葉を
発する事が大切です。
「何故、我慢しなければならないのか」
人に迷惑をかけるから、
後で自分自身が困るから、など
考えさせることや、
親がAを働かせ、
適切な判断で、子どもに我慢を教える事で、
子どものAは育ち、
セルフコントロールできるようになっていくのです。
■心の発達やより良い親子関係を築くうえで重要な役割を果たす交流分析
子どもの心の発達は、目には見えません。
「何センチ身長が伸びた」
「一人でトイレに行く事ができた」という
身体や行動の発達とは異なり、
心の発達は分かりにくいですね。
そして「我慢する力」がどれだけ子どもの身についたか、
結果は直ぐに分かるものではありません。
ですので、歯がゆく感じる事もあるでしょう。
「ありのままの子どもを受け入れる」と言っても、
なかなかできない事も事実です。
実際、日々の生活の中では、家事で忙しい時、
自分の体調が優れない時などは、
分かっていてもイライラしたり、
子どものことは後回しになる事もあるでしょう。
「今日こそは、子どもの気持ちを全て受け入れよう!」と
決意しても、夜、子どもの寝顔を見ながら、
「我慢ばかりさせちゃったね」と
呟く日もあると思います。
そのような時は、時間の構造化を振り返り
親自身が笑顔になる時間を少しとってみるのもいいですね。
親の笑顔は子どもの心を育む、
重要な無条件肯定的ストロークになるでしょう。
交流分析が子どもの「我慢」の構築や心の発達、
より深い親子関係を築くうえで
今後益々、重要な役割を果たすことを確信しております。
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